テレビが伝える「財政危機」

19日土曜日、BSフジの番組「ソーシャルTV ザ・コンパス」で、財政問題、消費税をテーマに議論する、と言うので見てみることにした。三橋貴明氏もビデオ出演されるとのことだったので、どのような議論になるのか興味があった。

番組が始まってみるに、スタジオのゲストが五十嵐財務副大臣、と言う時点でああ、ダメだコリャ感が漂う。五十嵐氏といえば財政再建増税推進の急先鋒で、その発言はことごとく日銀の意に沿ったもの。野党時代にはネバダレポートなる怪文書を国会で取り上げ、財政破綻の危機を煽る張本人である。こんな不審な人物をゲストに招いて喋らせる時点で、この番組の方向性はあらかた見えてしまった。
要するに政府広報プロパガンダである。

さて、とりあえずしばらくは我慢して見ていた。最初の解説映像で、「日本の国債貸し手は誰か?→日本国民」であるという事実を明らかにしたのは、「おっ」と思った。これまでの財政破綻論、国債についての議論では、この大前提といえる事実をまずはっきりさせているのを見たことがなかったからだ。

少しはマシになったか?と思ったのもつかの間、あとはやはりひたすら危機を煽るのみ。もっともらしく有識者を並べて財政危機派はウン十人、問題ナシ派は3人だけなどと財政危機が大勢であるとスリードする。
そんなもの、対象者の選別でいくらでも操作できるし、そもそも多数決で決める話ではない。我々がつい陥ってしまう多数派は真、流れに乗っておきたいという気持ちに乗じた情報操作の一例だ。

三橋氏のビデオ出演もほんの数分、単発で出ただけで後の議論にまったくつながらない。形だけ取り繕って両論ちゃんと紹介しましたよ、というポーズだけである。三橋氏もいい面の皮でしたな。

財政危機を語るなら、先ず何がどうマズイのか、実際にはどういうことが起こり得るのか、きちんと問題点を整理しなければならないはずだ。一応番組構成上、そういうところから入るつもりはあったようだが、結局おざなりなまま、本題である増税論に話を持ってゆく。

そもそも問題じゃないと言っている人がいるんだから、せめてそこをきちんと論破してから先に進めと言いたい。

番組ではいろんな「有識者」を取り出しては意見を求めるが、出るもの出る者スタジオにいる五十嵐氏のサポーターばかりなので、要は空理空論と扇動のオンパレードにすぎない。
借金1000兆円、というインパクトのある数字ばかりを取り上げて、その中身については完全無視である。

番組の解説者は、日本の財政状況について、放蕩息子が親に金を借り続けてアップアップになる姿に例えていた。
国家財政を家計に例える時点でもう語るに落ちるが、そのドラ息子、通貨の発行主体であるという事実はなんとする?
恐らくは最近、国債の貸し手が外国ではないということがだいぶ広まってきたので、それに対抗する新たなイメージ戦略として「親にタカるドラ息子」パターンを作りしたのだろう。まったく救いがたい。
時折画面に表示されるtwitterでの視聴者からの意見のほうがよほど的を射ているのは実に皮肉なものだ。

そんな感じで、あまり見るに耐えないのでTVを消してしまった。根本的な問題点を明らかにしないままでは、その後どんな議論をしようと上滑りするばかりである。

フジは民主に一体いくらもらってこの政府広報を作ったのだろうか。


そういえば先週あたりだったか、池上彰の経済ゼミナールという番組をやっていた。どこぞの大学での講演の様子を収めたものであったが、こちらも池上氏がどういうスタンスで解説をするかに興味があってみてみた。

流石にこちらはフジほどは酷くはなく、一通りの事実関係は抑えられていたようだ。何しろ池上氏は語り口がうまい。さすがはお父さん役を何年もつとめただけはある。

ただ、財政問題に関するスタンスは、政府のそれとたいして変わるものではなかった。

「日本の債務、今はまだ大丈夫です。今は。1000兆円までは。
でもこの先どうなるかはわかりません。どうすべきかは、皆さん自身で考えてください

こんな言い回し。うまいもんだ。あくまで結論は自分自身で、としてはいるけど、そこに至るまでの情報提供で、完全に結論に至るレールは敷かれている。まあ、洗脳のテクニックの一つかもしれない。

1000兆円まで、という線を引くならその根拠を示すべきだ。恐らくは民間金融資産残高との比較で言っているのだろうとは思うが、国債が国内で消化されている以上、政府債務残高が上昇すれば、基本的に民間資産残高も上昇するはずである。1000兆円なんてラインに何の意味もない。彼ほどの影響力のある人が、無責任に適当な数字を挙げてむやみに人を煽るのは本当に問題だと思う。

10のうち9までまっとうなことを言っておいて、最後の1に毒を忍ばせる。これは狙ってやっているとしか思えない。

日本の財政が債務超過で破綻する、というなら、いったいどんなシナリオをたどればそんなことになるのか、是非教えてもらいたいものである。いや、本当に教えてほしいよ


そんなわけで、受け売りの知識で精一杯テレビに突っ込んでみた。もう少し自分の言葉で書けるといいんだけど。
もっと勉強しないとね。