エコノミストたちの「認知的不協和」

6夜に亘って自民党が掲げる「アベノミクスの成果」に偏執狂的なつっこみを入れてきたので、最後にひとつまとめを入れようかと思ってたけど、なんかどうでも良くなってきたのでやめた。


ところで、面白い出来事があった。

■またまたエコノミストの予測外れる GDP下方修正発表に記者からどよめき

2014年7〜9月期の国内総生産GDP)改定値が、物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比0.5%減、年率換算で1.9%減となり、速報値(前期比0.4%減、年率1.6%減)から下方修正された。

GDPショック」といわれた11月の速報値の発表以降に、改定値を予測していた民間シンクタンクの多くが上方修正するとみていただけに、またもやその予想は覆された。
【JCASTニュース 2014/12/ 8 18:50】


12月8日、7-9月期のGDP改定値が発表されたのだが、11月17日に公表された速報値よりも下方修正という結果となった。


しかしこの公表の直前では、「7-9月期の改定値では上方修正の見通し」という報道がなされていたのである。

■7〜9月期GDP、上方修正の公算 設備投資はプラス圏に浮上


内閣府が8日発表する2014年7〜9月期の国内総生産(GDP)改定値は、速報段階から上方修正される公算が大きくなった。同日発表の法人企業統計を受けて民間調査機関の多くが設備投資をプラス圏に上方修正した。在庫寄与度も若干の上方修正が見込まれる。

【日本経済新聞 2014/12/1 18:10 】

この上方修正予測の報道が出たとき、俺は「ええ?本当かなぁ?なんか上がる要素あるんかいね!?」と半信半疑だったのだが、まあちょっと待てば公式数字が出るんだから、見てから判断しようと思ってとりあえずスルーしていた。


で、実際にフタを開けてみたら冒頭の「下方修正」となったわけだ。


ここでJCASTが「またまた」といっているのにはわけがある。「アベノミクスその2」でも触れたが、11月頭に7-9月期の速報値が出される直前も、大手シンクタンクの名うてのエコノミストたちが揃ってⅤ字回復を予測する中、発表されたGDP速報値は2期連続の前期比マイナスを記録。

見事エリートたちが爆沈したという、底辺庶民にはちょっと痛快な出来事があったからだ。

実際の速報値はこっちね。


全滅である。


というわけで、とある方面では結構笑いものにされていただけに、少しは反省したのかなと思っていたら、全然反省していなかったんだね、という話。


とはいえ、今回の二次速報値が出されるにあたって、上方修正を予測したのには一応、それなりの理由がある。

日経新聞12/1の記事によると、

財務省が1日公表した7〜9月期の法人企業統計によると、ソフトウエアを除く全産業の設備投資額は前年同期比5.6%増の8兆6420億円。季節要因を除いて14年4〜6月期と比べると3.1%増えた。


俺もコレをみて、うーん、意外と設備投資は伸びてるんだな、と思っていたのだが、J-CASTの下方修正のニュースによると、

下方修正の主因は、設備投資の落ち込み幅が速報値より拡大したこと。GDP速報値では「鉱工業生産指数」と「生産動態統計」をベースに算出するが、企業の設備投資については、遅れてまとまる財務省の「法人企業統計」を加味する。


おいおい、言ってること違うやん。


経済評論家の三橋貴明氏の解説によると、法人企業統計は対象となるサンプルが大企業に偏る傾向があり、景気悪化の影響を受けやすい中小企業(そして国内企業の90%以上が中小企業である)の状況が反映しにくいため、こういう齟齬が出たのでは、とのことだ。


まあ、そういう背景もきちんと理解した上で、現在の状況をもっと曇りなき眼で見つめていれば、こういう恥ずかしい大ハズレを二度も連続して出すことはなかったんじゃないかと思う。エコノミスト、というと専門家でエリートで大先生というイメージがあるんだけど、わりとこの程度なもののようだ。



まあ、人間のやることですから間違いもあるでしょう。経済予測なんてそもそも当たるも八卦的なところもあるしね。
むしろこの状況下で楽観的な予測を出すというのはある意味勇気の要ることで、その蛮勇は評価してもいい。

で、とりあえず日経より敗者の弁をお聞きするとしよう。

背景には設備投資と在庫の推計が難しいことがある。設備投資は「売る側」にあたる鉱工業品の出荷と、「買う側」にあたる企業の設備投資の動きから推計する。出荷された製品を個人向け、企業向けと分類する作業は内閣府がする。内閣府は法人企業統計で調査対象の企業が変わる影響をならす作業もしており、これらを外部からすべて再現するのは難しい。
【日本経済新聞 2014/12/8 11:38】


みっともない言い訳だなぁ。そんな言い訳するんだったら、はじめから予測なんかしないで政府発表をおとなしく待ってればいいだろうに。ほんの数日前のことなんだから。


政府と民間でデータ量や処理能力に差があるのはしょうがない。でもそこを独自の情報とセンスとあとはカンでなんとかカバーするのがエコノミスト(笑)様のお仕事なはず。

「データが足りないのでわかりませんでした」で通るんなら、専門家なんていらんわ。


で、同じ日経の記事にある最後の捨て台詞が奮っている。

7〜9月の数値も、次に10〜12月のGDP速報値が公表される時からさかのぼって見直される。ある民間エコノミストは「結局は正解のない数値であり、GDPだけを見れば景気が分かるものではない」と指摘する。


いやいや、まずGDPが基本でしょ。その上で各項目を見てくのが普通。基本的にGDPが増えるということは経済の全体のパイが増えることであって、よほど過度でない限り、プラスなら良し、マイナスなら悪いと言い切って問題ない(実質GDPと名目GDPのバランスはあるけど)。

少なくともGDPの推移と実体経済の感覚に差異があるとは思えない。


っていうか、お前らは予測を大ハズししといて反省するどころか「GDPなんかあてにならんもんねッ!」宣言かよ。


もはや彼らエコノミスト(笑)は認知的不協和に陥ってるとしか思えない。

認知的不協和−「すっぱいブドウ」の理論(wikipedia)


キツネが、たわわに実ったおいしそうなぶどうを見つける。食べようとして跳び上がるが、ぶどうはみな高い所にあり、届かない。何度跳んでも届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか。」と捨て台詞を残して去る。


【解説】

手に入れたくてたまらないのに、人・物・地位・階級など、努力しても手が届かない対象がある場合、その対象を価値がない・低級で自分にふさわしくないものとみてあきらめ、心の平安を得る。フロイトの心理学では防衛機制・合理化の例とする。また、英語圏で「Sour Grapes」は「負け惜しみ」を意味する熟語である。


是非、思い込みや願望を捨て、虚心坦懐、まじめに業務に励むことを薦めたい。


最後に日経の記事だが。

民間による予測平均を大きく下回ったことは、GDPの推計が難しいことだけでなく、足元の景気を映す指標としての限界も浮き彫りにした。

GDPの推計が難しいことはわかったが、「景気を映す指標としての限界」など全く浮き彫りにされておらぬわ。
おめーらが単にデタラメやって間違えちゃっただけだろ。GDPのせいにすんな!!


日経に至っては認知的不協和どころか精神分裂病の症状を来している兆候が見られる。
新聞作りなど精神に負担を掛ける仕事を続けていては命に関わる。一刻も早く業務を停止し、病院で診てもらうことを強くお勧めする。