アベノミクスの成果?? その5

それでは、次の項目を見てみよう。


■海外インフラ

・日本企業の海外インフラの受注実績が約3倍
3.2兆円(2012年)→9.3兆円(2013年)


これも元ネタが不明。
2014年3月に内閣総理大臣補佐官がまとめた「日本再興戦略におけるインフラシステム輸出戦略」という資料の最後にその記述があるのだが、「内閣府「機械受注統計」等の統計値や業界団体へのヒアリング等を元に集計した」とあり、どうもはっきりした統計数字はないようなのだ。実際、受注金額不明分もかなりあるようである。


経済の指標というのは常に相対的なものである。その数字がいいのか悪いのかは、ある程度の時系列の傾向、他との比較、数字を構成する要素の内訳などを見ていかないとわからない。単に「9兆円」とか「3倍」などという数字に意味はないのである。


そこで、ある程度時系列的に海外インフラの受注状況の数字を取っている、「日本機械輸出組合」の資料を参照する。日本の主要なインフラ・プラント企業が加盟しており、網羅性としてはほぼ問題ないだろう。

この団体がまとめた最新の資料が「2013年度 海外プラント・エンジニアリング成約実績調査」である。


この資料によると、

1.総成約額・総成約件数
2013 年度の成約総額は、222.3 億ドル(対前年度比 11.2%減)となり、2005 年度以降、過去 6 番目の成約実績となった。成約件数は 639 件(対前年度比 0.2%増)となった。
本邦からの輸出額は、2006 年度以降では最も低い実績(93.7 億ドル、対前年度比 27.5%減)となった。


えっ!?減ってるの??

同ページのグラフはこのようになっている。


うーん。減っている。。。
むしろ、2006年以降で受注額最大となったのは、2011年度民主党政権時代だというのだ。


さすがにこういう数字で「ウソ」をつくことはないと思うので、いろいろ集計の基準が違うのだろうが、どうも安倍総理派手な外交パフォーマンスの割には、そんなに伸びてないんじゃないか?という疑念が沸く。

だから元ネタを明らかにしろ、と口をすっぱくして言っておろうが。


まあ、それはともかく。いちおう増えたということにしておこう。


海外インフラ受注というのは、輸出に相当するから当然、これが増えれば日本の利益になるわけだが、ことはそれだけではない。単なる商品やサービスの輸出以上に、日本の「安全保障」にも大きくかかわる重要性を持っている。

外国のインフラに日本が投資することによって、その国との結びつき、信頼関係が生まれる。実際にその国に利益をもたらすことができれば、我が国に対する態度も好意的なものになっていくことが期待できる。そして、やや戦略的なところでいえば、その国が日本の投資に依存するほどにまで至ると、国際社会において我が国の意向に対し反意を唱えにくくなる状況も生まれるだろう。


海外インフラ輸出は、日本の国際社会での地位を高める上で非常に重要な意味を持っているわけだ。


そのことを十分に理解し、戦略的にこれを進めているのが、まさに中国である。

経産省がまとめた平成24年4月の「海外インフラ・システム輸出の現状」という資料によると、日中韓の海外インフラ受注額の推移はこのようになっている。

もう、中国が圧倒的に伸ばしているのである。中国は、とくにアフリカ方面での受注額が大きく、2007年−2010年の3年間の累計で1,506億ドルは日本の20倍にもなる。

アフリカは人口こそ多くないが、50もの国を抱え、当然ながら国際会議ではそれぞれが1票を持っている。これらの国を味方にすることができれば、国連などにおける中国の発言力強化につながるであろうことは想像に難くない。
アフリカはほとんどの国が政情不安だったり治安が悪く、半分以上が独裁国家というのもあり、中国お得意の「袖のシタ」が使いやすいという事情もあるのかもしれない。


また、上記のグラフで驚くのは、日本は中国どころか、韓国にも劣後しているのである。日本はずっと200億ドル前後で横ばいを続けているが、韓国は中国ほどではないとはいえ、2010年で日本の3倍にもなろうという規模である。

日本機械輸出組合のデータでは、2013年は222億ドルと、2010年をさらに下回っているため、この中韓との差はさらに広がっているのではと思われる。
これはちょっと危機感をもったほうがいいかもしれない。


とはいえ、海外インフラもただ多ければいい・少ないとダメ、という単純なものでもないと考える。
中国はともかく、韓国は内需が圧倒的に少ない外需依存の国である。国内でやっているだけでは儲からないから、外国の需要をどんどんとりに行かないとやってけない国なのである。内需中心で貿易依存度の低い日本があまり海外インフラに熱心でなかったのも、その辺が理由としてありそうだ。
あまり海外インフラに注力しすぎて、日本が外需依存体質になってしまうのも、これまたまずい。ここはバランスも考慮する必要があるだろう。


ただ、上記のように海外インフラ輸出は国際社会における自国の地位を高め、安全保障に寄与するし、何しろ日本と敵対関係にある中韓がこれをどんどん進めている状況にあって、日本もこの競争に加わらないのは、将来にわたる安全保障の弱体化を招きかねないわけであるから、これからはどんどんリスクをとって海外インフラ受注を伸ばしていかなければならないだろう。
とりわけ、日本の得意分野であるエネルギーに関しては、国内での原発の新規建設がサヨクどもの妨害のせいで当分見通しが立たないので、海外受注によって技術を維持するという意味もある。


また、海外インフラ受注時には財政投融資による円借款なども活用される。つまり日本のカネが行って来いで日本企業に支払われるわけで、政策的な景気対策としても意味があるだろう。なんせ、国内のインフラにカネをつぎ込もうとするとメディアや各方面から「バラマキ」だの「箱モノ」だのと難癖をつけまくられるのだ。なぜか海外インフラに関してはそんな風に言われることはないのが不思議だ。


あれ・・・?財投債、増えてないな。もっとカネださんかい!!


安倍政権になってから海外インフラ受注がどれほど増えたのかについてはどうもはっきりしないとは言え、いちおうやる気はあるようなので、方向性としては頑張って欲しいと思う。



最後に一言だけ付け加えたい。
海外インフラ受注に向けるその熱意を、国内インフラ投資にもちょっとは向けてもらえないものだろうか…?