アベノミクスの成果?? その4

さて、四つ目の「観光」について考察する前に、このブログを読む方(数人レベルではいると思われる)に注意事項を。


ここんとこ連続でアベノミクスの成果」について批判をしているが、別に安倍倒閣運動をしようとか、自民党を選挙で落とそうとかいうつもりでやっているわけではない。選挙期間中なのでそこは誤解のないように願いたい。

単に、この2年間の安倍政権を通じて実現されたこと、されなかったことをデータから読み解いて、本来のぞましい経済政策の方向性とは何だったのかを考える材料としたいだけだ。

俺は基本的に「金融緩和+財政出動という意味でのアベノミクスには大賛成なのである(第三の矢はイラネ)。ただ、現実に実行されたアベノミクスは、俺が期待する意味でのそれではなくなってきていることが問題だと考えている。ま、そこについてはまた気が向いたら改めて書くかもしれない。



前置き終わり。批判モードにもどる。


■観光

・2014年4月には、旅行収支が44年ぶりに黒字化


ふーん。
「旅行収支」とは、日本人が海外で使ったカネを「支払」、外国人が日本国内で使ったカネを「受取」に計上して収支計算したものだ。(旅行運賃は除く)

これがアベノミクスにより黒字化した。つまり儲かりました、ということなのだが、それではデータを見てみよう。


財務省が公開している国際収支のうち「サービス収支」時系列データを使用してグラフ化してみた。


・・・なんのことはない、旅行収支の赤字幅の縮小は20年も前からつづく長期トレンドであって、それが今年の4月、ついに黒字に達した、というだけのことである。


いままで下落傾向にあったトレンドが転換し、上昇基調に変わった、というのならばそれは「成果」と言っていいのだろうが、これを見る限り、はっきり言ってアベノミクスほとんど関係ない。おそらく、民主党政権のままでほっておいてもじき黒字化しただろう。

こういうのを「成果」としてあげるのは、ちょっとズルいんじゃないか?


そしてもう一つ問題がある。
そもそも、「旅行収支の黒字化」が何を意味するかである。


もちろん、黒字化自体は悪いことではあるまい。
外国人が日本にきて沢山お金を使う。儲かる。日本が外国人にとって魅力的な旅行先として選ばれる。観光地には活気や潤いをもたらすこともあるだろう。

しかしこれは収支の話であるから、片方が増えた反対に片方が相対的に減っているということである。すなわち、日本人の海外旅行だ。

80年代からの出入国者数の推移をみてみると、

政府観光局統計資料より作図


日本はバブルの好景気に出国者数がうなぎ登りになったが、その後横ばいとなっている。
一方、入国者数は一貫して伸び続け、リーマンショック東日本大震災により大きく落ち込んだものの、翌年すぐに回復してトレンドは崩れていない。


当たり前のことだが、日本人が裕福になれば海外旅行者は増えるし、余裕がなくなれば旅行は控える。出国者数の推移は日本の景気を示す指標の一つでもあるわけだ。


また、日本人の海外旅行者があまり増えていないのに、訪客数が増えるということは、経済成長において他国に遅れをとっている、と見ることもできる。

それは出国者数だけでなく、一人当たりの旅行収支支払いをみてもその傾向は顕著だ。

第一生命経済研究所のレポートに掲載のグラフを引用するが、


節約志向の高まりによるものか、2009年から支払額が大きく落ち込みを見せている。

「旅行収支の黒字化」という現象は、日本人の貧困化という、よろしくない問題を意味している疑義が濃厚なのである。


さらに、同じ第一生命経済研究所の資料によると、日本人の出国者数を年齢層別で見ると、30才以上の中〜高年層はおおむね増加傾向にあるが、29歳未満の若年層は、96年のバブル崩壊ごろから減少を続けている。


つまり、近年の日本人の海外旅行の傾向は、若年層の貧困化・高齢層の富裕化という格差の拡大をも示唆しているのである。


「旅行収支の黒字化」は、日本が儲かっていることを意味しており、それ自体は悪いことではない。しかし、「なぜそうなったか」を背景や時系列を含めてみてみると、実はちっとも嬉しくないのである。日本人旅行者の数も支出も増えるなか、それ以上に訪客数が増えた、という状況になって初めてプラス評価ができるだろう。


こんな微妙な数字を、(しかもアベノミクス効果によるものと判別しがたいものを)誇らしげにアベノミクスの成果であるように掲げるというのは、どう考えてもよろしくない。

こんなものを出して国民が「おお、黒字化か!すごい!安倍ちゃんGJ!」なんて喜ぶと思ってやっているとしたら、相当に国民をバカにした話である。もしそうでないとしたら、よほど他に出すネタがなくて苦し紛れに挙げただけ、としか考えようがない。


少なくともドヤ顔して誇るようなものではない。
悪いことは言わない。恥ずかしいからこんなもの引っ込めろ、と教えてあげたい。