読書メモ

■竹林はるか遠くー日本人少女ヨーコの戦争体験記(ハート出版、ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ)

戦争の悲惨さを描いた自伝的小説として、アメリカでは教材としても使われているにもかかわらず、引揚者に対する朝鮮人の残虐な振る舞いが描かれているとして、そっち系からの抗議にあい、なかなか日本版が出版できなかったといういわく付きの本である。
それがついに日本版として発刊されるということで、保守系ブログなどでも話題になっていた。

当初6月には出るということだったが、やはり色々問題があったらしく、発刊は延び延びになっていた。

そういうことなら、これは是非図書館に置かれるべきだろうと思って購入希望を出していたところ、このほどようやく入荷したとの知らせがあり、手にすることができた。

終戦直後の混乱期における庶民の生き様、ということで、設定は「蛍の墓」を思わせる部分があるが、やはり朝鮮半島からの引き揚げの苦難を中心に描いているため、その悲惨さは凄まじいものがある。

問題の朝鮮人に関する記述であるが、確かにひどいのだが、別に筆者には恨みを込めて非難するような意図は見られず、むしろ淡々と描かれている。鬼畜のようなのもいれば、いい奴だっている。

著者本人の視点から書かれているので当然偏りもあるだろうが、至って冷静な描写に終始しており、特別に朝鮮人に対する悪感情を惹起させるようなものではない。

一体、何の都合が悪くてこの本の出版を阻んでいたのか、あっちの人たちは。

著者自身は、反戦への強い思いからこの書物を記したようであり、今もその活動を続けているらしい。
コリアン社会から敵視されるのも、逆に妙に保守派から注目されちゃうのも、どちらも著者の本意ではあるまい。

内容としては面白かったので一気に読み終えてしまった。
思想の右左に関係なく、一度読んでみるといいと思う。