アベノミクスの成果?? その1

こんどの衆院選に向け、自民党「重点政策集2014」なるものを発表した。
公約というにはあまりにもまとまりがなく、ただ思いついたことをひたすら並べただけ、という印象しかないのだが、そこは置いとくとして、冒頭にこんなページがあった。



要するにこの2年間のアベノミクスの「成果」を誇っているわけだが、GDPを2期連続でマイナスに落ち込ませ、不景気へ再突入しちゃったところでたまらず解散した割には、随分と素敵な数字が並んでいるものである。

が、こういうものは「ふーん、すごいじゃん」で終わらせず、きちんと数字の意味や中身を確認するのが、大人の社会人としての正しい態度である。

そんなわけで、このアベノミクスが誇る「成果」とやらにつっこみを入れてみることにした。



■雇用

・就業者数は、約100万人増加
・有効求人倍率は、22年ぶりの高水準
・高校生の就職内定率は、約13%改善


その他の項目についても言えることなのだが、こういう数字を出すときはきちんとどの統計に基づくものか示すべきである。どっからどう取って来たのか、調べるのが面倒なのだ。

で、このうち就業者数についてだが、元ネタはこれだ。

【総務省統計局・労働統計データ

まず言っておくが、雇用というのは一般的に季節影響の大きい数字である。
自民の資料では、2012年12月と2014年9月を比べているが、これはフェアなやり方ではない。普通、同期で比べるものである。多分、「100万人」というキリのいい数字が欲しかったんだろうな。
まあ、今回は同期比で出しても大差はないのでとりあえず良しとして、このまま見ていくこととしよう。


さてグラフだが、たしかに政権交代を境に就業者数が上昇に転じている。これは悪くはないだろう。


だがちょっと待ってほしい。評価をするのは、その中身を見てからだ。

試しに同じデータから男女別の就業者数をグラフ化してみると、



なるほど、109万人のうち8割近くは女性就業者の増加によるものだとわかる。
女性就業者は、2012年末ごろから明らかに増加傾向になっている。

一方、男性就業者は+35万人だが、これは2009年後半からの緩やかな減少トレンドの中での若干の盛り返し程度に過ぎないともいえる。

「女性が輝く社会」とかいうスローガンがあったが、就業者数という意味では数字にあらわれているわけだ。

じゃあ、その輝く女性はどんな働き方をしているのかというと、


【雇用形態別役員を除く雇用者数】4半期ごと・2011〜

正規雇用は横ばいかやや減、増えているのは正規雇用とわかる。
輝いてる!?うーん。

たしかにうちの近所のスーパーで元気に働くレジのオバちゃんの笑顔は輝いていることは認めるが・・・


それでは一方で、男性の雇用はというと、


このように、順調に非正規が伸び、正規雇用が減少している。
・・・って、えっ!?

それ、あかんやつやん。


なお、先にも言ったとおり、こういう周期的な季節変動があるデータを見るときは、「同期比」で見るのが正しい。
政権交代前の2012年4-6月期の正規雇用2,313万人
2014年4-6月期は2,271万人


男性正規雇用に限定すると、40万人も減っちゃってるのである。
おいおい、民主より悪いってどないやねん!



要するに、就業者数の増加は男も女もほぼ正規雇用の増加によるものである。その一方で、男性の正規雇用の機会が奪われてしまっている可能性が示唆されているのである。


全就業者数、という単純にグロスの数字を出すと「いいね」となるかもしれないが、中身を見るとちょっとこれはマズいんじゃ・・・?という現実が見えてくるのである。


ただ、アベノミクスを肯定的に捉えている人からすれば、「これは景気回復の初期段階に過ぎない。まずは非正規雇用が増え、しかるのちに正規へ転換していく」という意見もあるだろう。

しかし、もしそうなら、正規雇用は増加あるいは少なくとも横ばいでなければおかしい。企業は明らかに、正規雇用から非正規へのシフトを進めている。
「初期段階だ。じきに転換する」なんて呑気にかまえていていい状況ではない。

そのことは長期の時系列で見ても明らかである。


このように、30年も前から、正規は減り続け、非正規が増え続けているのである。しかも、短期的な景気の変動はほとんど関係ない。

一体いつになったら、正規雇用に転換されるのか?


それにしても、80年代って正規雇用80%以上もあったんだなぁ。資料を調べて初めて知ったが。
そういえば、まさに「いつかはクラウン」というキャッチコピーが話題になったのも、ちょうどこの頃である(1983年)。

ほとんどが正規雇用で安定した職を得て、まじめに働いてればおおむね給料も増えていくから、そんな風に将来に夢を持つことも十分にできたわけだし、実際にそうした人が多かったのだろう。

長期的に見て、日本の労働環境はそんな「夢を持てる」社会からじりじりと遠ざかっている。

そして、安倍政権によって、そうした傾向に更に拍車がかかっているのではないか?
そんな疑念を抱かざるを得ない結果となったわけである。


いいのか??このままで・・。




以上のように、アベノミクス「第一の成果」を見てみたわけだが、表面に現れた数字とは裏腹に、内容を見てみると単純に手放しでは喜べない、注意を要する指標であることがわかってきた。

統計数字というのは見方によっては良くも悪くも見えるものだから、仕方のない部分はあるとはいえ、自民党周辺がこの数字に内在する問題点をきちんと認識しているのか、はなはだ疑問である。


まさか、「就業者増えたぜ!バンザーイ!ドヤァッ!!
なんて、思ってないだろうな。


有効求人倍率、高校生の就職率についても調べようと思ったが疲れたので辞めた。