東京カルチャーカルチャーで地図ナイト。

どっちかつうと今日のメインはこっち。


東京カルチャーカルチャーはお台場にあるイベントスペースで、けっこうマニアックなネタを軽いノリで飲み食いしながら楽しんじゃおうというコンセプトで、さまざまなイベントを企画している。

「間取り図ナイト」が人気企画で、俺も何回か見に行っている。お台場は遠くてなかなか行きづらいのだが、こういうカルチャーイベントをやっているところを他にあまり知らないので、ここのイベント情報はちょくちょくチェックしている。


で、今回目に留まったのが「地図ナイト」。

もともと地図には興味があって、iphoneを初めて買ったのも地図アプリで遊びたかったからといっていいのだが、それでも別にマニアックに追求するというほどのことはない。

ただ、やはり地図というのは掘れば掘るほど味わいが染み出してきて、まさに江川氏の言葉を借りれば「これでご飯3杯はいける」という世界である。今回はその入り口をちょっと覗いてみようと現地に乗り込んでみたものだ。



会場にはいると既に100人あまりの席はほぼ満員。地図ファンの裾野は決して狭くないようだ。



入場時に渡される資料。東京西南部の25,000分の1地形図と、ゲストの江川達也氏がお勧めする目黒川付近の明治〜現代までの地図。さっそくディープな世界が全開である。



パネリスト陣はMCの平井氏、小林氏と漫画家の江川達也氏、地図研究家の今尾圭介氏。
ほとんどMCの必要がないくらいに後者の2人がこのあと喋りまくる。



東京大学物語」で一世を風靡した江川氏であるが、どうも地形図フェチとしてもかなりの活動家のようである。これは東京の地形図の等高線をトレースして、自分で色塗りをしたもの。地図中の等高線というのは恐ろしく細かくてわかりにくく、これを塗るだけでも大変な労力である。しかも10km四方くらいしかない地形図を何百枚も塗りまくって張り合わせてようやくこの範囲をカバーしたというのだから、もはや狂気の沙汰としか思えない。

「狭山丘陵、いい味出してますねぇ」
「ここ、断層ありますね」

これを見ただけで地図フェチたちは垂涎ポイントを素早くみつけてしまうのだから恐ろしい。



まずは玉川上水の支流としてつくられた「三田用水」を中心に論を進める。
玉川上水、といえば港区出身の俺にはちょっと馴染みがある。田町にある区立三田図書館の4階には資料館があって、かつての玉川上水の遺構(木製の水道管など)が展示されていたのを思い出す。



こんな感じで安藤広重「名所江戸百景」から当時の三田用水とその周辺の姿に思いを馳せる。ここで各地に残る富士塚なんてものにも話が及ぶ。地図と絵だけでいくらでも話が盛り上がってしまうのがやはりすごい。



「高低差フェチ」の江川氏の超絶おススメポイント、目黒川周辺の旧版地図。いまは住宅地になってすっかり様変わりしてしまったが、目黒川がつくるの姿や、それが台地に這いこむところがたまらないそうだ。ちなみに三田用水は崖の上の台地を通っている。

かつてあった東京市電の線路の名残、中断された都市計画の跡など、不思議な地形(いわれないとそうと気づかないが)の理由が旧版地図と合わせてみることで次々に明らかになってゆく。こりゃ想像してるだけでご飯何杯でもいけるわ!!



江川氏のフェチワールドをさんざん堪能したあと、今尾氏にバトンタッチする。

こちらはいろんな場所の旧版地図を出しながら、それが描かれた時代背景や、描いた人の気持ちまで察してしまうという、負けず劣らずのディープワールド。



戦後まもなくに作られた「緑コンター」の地図。コンターとは等高線のことだが、外国の事例を見ても等高線が緑色で描かれるのは珍しい、らしい。等高線フェチの江川氏もたまらずつっこみを入れてくる。

この図は横須賀あたりの地図で、今はなき貨物列車の線路がぐるりとまわっている姿を描いている。このあたりはタモリ倶楽部でも特集をしていたのを見たことがある。線路が交わる箇所はダイヤモンドクロス(平面直交)と呼ばれ、その筋では有名らしい。



↑ダイヤモンドクロス。



こちらも同時期の逗子の緑コンター地図。木の枝についている葉っぱのようなものは弾薬庫。危険物なので谷間に穴を掘って保管し、かつ輸送のために線路を引いていたため、こういう図柄になっているのだ。



こちらは戦後の渋谷駅前。市電が国鉄前をくるりと廻っているのがわかる。渋谷川は既に暗渠になっているようだ。


今はなき地図記号。なーんだ。




正解は「風呂屋の煙突」。
確かに目印として都合がいいから、地図に記すのも当然だろう。



京都の地図。わざわざ添えられたコメントが面白い。



同じく京都。100年も前の地図なのに、系統の違う私鉄線路を色分けし、線路が重なるところは点々を交互に記すなど、細部まで至るこだわりがすごい。



海外の地図も話題に。海部を表す波線が美しい。どうやって描くんだろう?



休憩のあとさらに話はつづく。



皇居・田安門周辺の明治初期の地図。
九段坂に1mごとの等高線が引かれており、江川氏が絶賛する。

九段坂は現地に案内パネルもおいてあるのだが、「むかし御用屋敷の長屋九段に立し故、之を九段長屋といひしより此阪をば九段阪といひしなり」という由来が『 新撰東京名所図会』に描かれているのを見たことがある。昔は今よりずっと急な坂だったのだ。

さらに、震災で天井が崩落し営業停止となった九段会館の建つ地は、かつて池があったことも判明。もともと地盤のあまりよくない土地だったわけだ。納得すぎる!



そんなこんなで3時間あまりディープなトークに浸って、すっかり地図ワールドの奥深さを堪能した。うーん、こういうのを趣味にできる程度に時間と心の余裕があったらなぁ。

これからは風景や地形の意味とかを考えながら街歩きすれば、もっと楽しめることだろう。



外に出たらすっかり夜に。下から見る観覧車はなかなかの迫力。