毒入り

たまたまつけていたテレビで(こんなんばっか)NHK大河ドラマ「八重の桜」のダイジェストをやっていた。

このドラマ、ついぞ一度も見ることはなかったのだが、どんなんやねんと思って見ていたら、同志社の総長となった八重の兄、山本覚馬が卒業生たちに訓示を授けたのち、程なくして天寿を全うしたというくだりであった。

気になったのが、同志社への入学希望者が減少したのを捕まえて、原因は前年に発表された教育勅語国家主義的思想にあるのではと、指摘する部分である。

覚馬は、勅語が掲げる12の徳目のうち最後の一節「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」について、国民に信仰を強制するようなやり方に疑問を持った、ということだ。


ダイジェストしか見ていないから、前後にいろいろいきさつはあるのかもしれないが、これにはぼーっと見ていた俺も驚いた。

NHKめ、また毒を盛りやがったな!!


覚馬が史実として教育勅語に疑問を持ち、そのような発言をしたり記録が残っている、というのならまだいい。

しかしざっと調べてみた所、特にそのような記録は見当たらない。当然と言えば当然で、あの時代でそんな発言を公人がしたなんてことが表沙汰になったら、明治の一大事として事件になっていただろう。同志社の存続も危うくするところだったに違いない。

とすればおそらく、覚馬が勅語に対して疑問を呈した、などという史実は存在しない。前後の状況から、そう思ってたかも知れないね、くらいは言えるかもしれないが。

この部分はNHKによる創作と言っていいだろう。


もともとフィクションなのにいちいち目くじらを立てるとは、という意見もあるかもしれないが、フィクションだからかこそ、なぜそういうエピソードをあえてわざわざ入れたのか、という点は重要であると考える。

まして「公共放送」たるNHKのすることである。


ちなみに教育勅語だが、そのまま現在における教育の基本方針としても十分に通用する、いや、そうすべきと言っていい実に素晴らしい内容である。

戦時体制が強まる1930年頃には、これ自体が神格化され、「軍国主義の経典として利用され」(wikiによる)たとのことだが、それは発布から随分後のことだ。

劇中で批判していた12番目の徳目についても、今でこそ多少の違和感を感じることもあるかもしれないが、当時としては当然の内容である。
列強からの侵略の危機を退けてまだ程なく、アジア情勢は不安定、国家は一致団結して国力増進に取り組んでいかなければならない、というのは当時の情勢としては当然(もちろん今でもだが)である。また天皇国家元首であって、天皇しらす国こそが日本である。国家存続を願うこと、イコール「天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼」することとして何の疑問もない。

これに疑問を挟むというのは、いささか現代の反日サヨク思想に塗れた偏った脚色であるといえないだろうか。


繰り返すが、これが事実ならまあいい。


創作であるならば、NHKは現在も続く皇室について、国民がそれを敬愛する気持ちに対する疑問を、あえてわざわざ投げかけたということになる。

さらに100歩譲って、これが民放のすることならまだ許せるとしよう。どうせ似たようなことはずっとやっている。

しかしNHK、お前はだめだ。

お前は国民から半ば税金のように視聴料を捲き上げていながら、現在の憲法に規定された「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」たる天皇という存在に対し疑問をいだかせるようなエピソードを、敢えてわざわざ差し込んだということだ。
公共放送がやっていいことではない。


この件についてネットで検索してみると、俺と同じように反感を持つ人ももちろんいるが、一方でこんなのもあるのである。

教育勅語か。教育の名のもとに人を縛るようなことがあってはなんねえ」 冒頭の場面で、同志社大学臨時総長山本覚馬が語った言葉に拍手。 教育勅語は亡国への道、「亡国勅語」だった。安倍政権は再び同じ道を進もうとしている。

これはたぶん一般個人のtwitterなのだが、google検索で一番に出てきたものだ。誰かは知らないが、おい、それはフィクションだし覚馬がそう言ったわけではありませぬぞ、というつっこみはまあ置いておくとして、実際に現在の政治につなげて考えちゃう人がいるのである。この人はもとから安倍政権アンチみたいだからまあいいけど、大してそういう意識のない人にも、なんとなく「天皇って、押し付けみたいで嫌だよね」なんて刷り込みをされてしまう可能性は否定できない。

個人でそう思うのは自由である。だが、ほぼ全国民から金をとって、日本の憲法、国家の枠組みの中で放送させてもらっている「公共放送」が、勝手な創作で毒を撒き散らし、天皇の地位を貶めようとするのは度し難い。


NHK、やはり解体するほかあるまい。




春に旅行した会津若松鶴ヶ城の勇姿。福島はとにかく、メシが最高に美味かったのである。