総選挙

12月16日、総選挙によって安倍自民党が294議席を獲得、自公あわせて衆院2/3を抑える圧勝となった。

長い戦いの緒戦を獲ったに過ぎない成果ではあるものの、まずは一安心である。

ところで今回の選挙は投票前の世論調査などから既に自民300議席もうかがう、などと圧勝は予想されていたのだが、俺はこの調査については懐疑的だった。

というのも、解散以降何人かの友人知人と選挙について話したりしたのだが、安倍自民支持で固まっている人は皆無であったからだ。

聞いた相手が一様に言うのは、「民主はさすがにもうない、でもそれ以外というとちょっと…。自民党?うーん」という感じであった。

前回総選挙では多くの人が民主に投票したが、それが誤りであったことは皆気付いているのである。
「一回やらせてみて下さい、だめなら戻せばいい」の甘言に誘われて投票したのだ、間違いとわかったなら元の自民党政権に戻せばいいだけのことであるが、そこにはどうしても抵抗感があったのではないだろうか。

その原因は第一に、マスコミによって長年植え付けられてきた、自民党に対するネガティブなイメージ戦略、レッテル貼りによる呪縛からはなかなか逃れられないということだろう。

曰く「派閥ガー」「族議員ガー」「利権ガー」などのお定まりのネガティブフレーズ、また「漢字読めない」「カップ麺の値段」「お腹痛い」などの誹謗中傷。こんなものに毎日さらされていては、何となく自民党に対する悪感情を植え付けられてしまうのも無理はない。


そして第二に、三年前の選挙で間違った選択をしてしまったことを、わかってはいるけれども認めたくない心の問題があったのではないだろうか。

三年前に民主党にいれた人は、それなりに政治に関心を持ち、この国がもっとよくなって欲しいと十分に考えた(つもり)上で票を投じたはずである。

そしてその結果、予想を超える失望を味わうことになった。全くの素人集団で運営が拙い、程度なら想定の範囲内だったが、それ以前に彼らの政治運営は嘘と欺瞞、ごまかし、言い逃れ、怠慢と我欲に塗れた最低のものだった。しかもやることと言えば徹底的に特定アジアを優先し、日本の国益を損ない、衰退させる売国政治ばかりであった。

民主に投票した多くの人は、詐欺師に騙されて、恐るべき売国行為に加担してしまったことに気付いている。

皆それぞれ政治のことはわかっているつもりでいたのに、完全に誤った選択をしてしまったことで、彼らの自尊心はいたく傷つけられてしまった。

素直にこれを反省するなら、この総選挙で自民党へ票を投じ、自らの過ちを清算するのが正しい行動である。
しかし三年前、麻生自民に散々悪態をついてこれを完全否定してきた。また立ち戻って自民党へ投票することは、自身の過ちを認めることになり、自尊心をさらに傷つけてしまうことだろう。そんな抵抗感があったのではないか。

このことは59%という戦後最低の投票率にも現れている。

一方で、民主はもう嫌、でも自民もちょっと…な人を受け入れるべき「第三極」は、その構成員のほとんどが政党ロンダリングの末の民主離党組であったり、民主以上の素人集団であることはあきらかだった。しかも、太陽の党→維新への理念なき合流劇や、未来の党のグダグダっぷりをみるにつけ、さすがに民主で懲りた人たちはこれら胡散臭い輩に投票して同じ過ちを繰り返すほど愚ではない。

そんな彼らがとった行動は、投票権の放棄である。もう誰かを信じて騙されたくない、間違えて恥ずかしい思いをしたくない、というのが、棄権した人々のうち多くにあった感情ではないだろうかと思う。思考停止の引きこもり、逃避である。

事前の世論調査でも、「投票先を決めていない」という層が最終盤まで40%以上を示していた。彼らは結局、そのまま投票しないことを選択したのである。


また投票にいった人でも、選挙区は自民党の候補者に入れ、比例区では他党に入れたと思われるケースが多いようだ。

選挙区の候補者を応援し、その政策を実現して欲しいと思うなら、数を与えるために比例区にも同じ政党に投じるのが普通の行動である。
誰か一人の候補者、一つの政党を信じ、それに託す、ということに、有権者臆病になってしまったのではないか。選挙区と比例区で票を変えるのは、一種の「保険」であるといっていい。

今回はその受け皿は「第三極」のうち、わりと威勢のいい維新と、第三極の老舗といっていいみんなの党だった。社民や共産は論外ということか。


三年あまりの民主政権で失ったものはあまりに大きい。数々の亡国行為、外交敗北、経済の毀損は言うに及ばずだが、何よりも有権者たちの政治に対する信頼を失わせ、無関心な態度へと逃避させてしまうに至った。


間もなく成立する安倍自民政権では、果たすべき課題は数多い。しかし個別の政策云々以前に、国民の一票で社会や生活は変えられる、もっとよくなる、という希望を取り戻さねばならない。

痛い失敗をして引きこもりになってしまった有権者を、政治の世界に呼び戻す。そのためには、7月の参院選までに、何か一つでいい、「安倍自民になってよかった」といえる成果をあげることしかない。

頑張って欲しい。