自分でやってみよう

消費税や日本の財政に関して、最近気に入っている評論家といえば三橋貴明氏なのだが、ブログの記事やいろいろな動画の講義を見るたびにちょっと気になる点があった。

これは氏が「税収は名目GDPに比例する。政府が増収を目指すには、名目GDPを増やすしかない!」という説明をするときに良く使うグラフなのだが、

印をつけた部分が気になるのだ。たしかに1997年以降はほぼ完全一致といっていい推移を示しているが、それ以前はむしろ逆のように見える。

さんざん「ウソ本」を読み漁ってきたお陰で、「グラフや数値は自分の都合のいいところだけ使う」ものと認識しているので、逆に見えていない部分が気になるのだ。三橋氏はこの部分については、「バブル崩壊後の経済対策として減税してたから」とサラッと流すにとどめているが、本当にそうか〜?と疑心暗鬼が芽生えてきた。

ので、しょうがないから自分でグラフを作ってみることにした。
あまり得意ではないのだが。。。


元ネタにしたのは「世界経済のネタ帳」というサイトと、財務省のホームページ。国民経済計算については内閣府のホームページからもCSVが落とせるのだが、ぱっと見1994年以前のGDPデータが見当たらなかったので、こちらは使わなかった。

で、作ったのがこれ。

なるほど、たしかに名目GDPと税収が負の相関になっているのは、バブル崩壊後の1990〜1995年の間だけといってよさそうだ。これなら一時期における例外として、わかりやすさのためにグラフから外すのも問題あるまい。
ついでに相関係数も計算してみた。85年以降オールでみるとr=0.26だが、1994年以降に限ってみればr=0.84と、強い相関があることがわかる。
それにしても名目GDPが現在の7割ちょっとしかなかった30年前と、現在の税収が同レベルとは。。

三橋氏がとりあえずこの件に関して、グラフを妙な印象操作に使っていないことはわかった。ちょっと安心した。


さて次に、この30年間でどのような税目がそれぞれ増減しているのかをグラフ化してみた。

1988年以前の緑線は「物品税等」である。
バブルの頃は所得税法人税爆上げしていたことがわかる。1989年の消費税導入とともに法人税がまず減少に転じ、所得税がやや遅れて下降をはじめたようだ。減税の効果もあると思われる。

その後しばらくして両税目が回復の兆しを見せていたところ、1997年の消費税増税とともにまた大きな谷を作る。税収総額もダウンしている。

なるほど、中長期的にはともかく、短期的には「消費税増税すると税収は減る」という意見は基本的に正しいと思ってよさそうだ。


さらについでに、各税目と名目GDPに対する相関係数もとってみた。

やはり全期間では有意な値は出ないのだが、デフレに突入した1997年以降だけを切り取ってみれば、所得税法人税r=0.82という相関を示している。
ん?消費税は逆だな。。。


消費税は所得(名目)の増減とはあまり関係なく、消費行動自体にかかる税金なわけだから、これは名目GDPよりは「実質GDPのほうと相関があるのではと思って調べてみた。

おお、綺麗に重なったなぁ。1997年は当然、税率アップによるものである。ちなみに相関係数0.93。ほぼ完全一致といえる。いやぁ、大成功だ。

これらの相関係数については、数字上そういうふうに見えるというだけで、因果関係があるかどうかは全く別問題ではあるものの、一般的傾向としてはこのように捉えておいても問題はあるまい。


これら基礎的かつ表面的な数字を弄った限りにおいて、以下の仮説が立てられる。

・消費税は実質GDPの成長とともに増えていくので、長期的な安定財源に向いている。
・名目GDPを上げることで、所得税法人税収が伸び、税収総額が増加する。
・消費税率を上げると、消費税収の伸び以上に所得税法人税収が減少し、税収総額は減少する。
・消費税増税直後の所得税法人税収の激しい落ち込みは、徐々に緩やかに回復する。

これをもうちょっとまとめると、

・税収総額を減少させずに消費税収を増加するには、実質GDPを成長させる。
・所得/法人税収を増加させるには、名目GDPを成長させる。
GDPを実質/名目両面で成長させれば、日本ウハウハ

てな感じでいいかなあ。


あくまで仮説なので、だからどうということはないのだが、おおむね三橋氏らの説と同じ論点が得られたようだ。まあ、同じようなデータソースで同じようなグラフ作ってるんだから当たり前かな。もう少しつっこめばまだまだ色々出てきそうだけど、これ以上は面倒くさいからパス。


この程度の議論は、マクロ経済の本でも読めば調べるまでもなく出てくるんだろうなぁとは思うけど、何しろ大学の一般教養で完全に挫折して以来、ミクロ/マクロ経済学はとんと遠ざかっており、また教科書を開こうなどという気にはとてもなれない。
でももうちょっと頑張って勉強しておけばよかったかな。。ちなみに当時の教科書は東大の伊藤元重さんのぶ厚い本だった。


以上、経済評論家のマネごとをしてみました。面白いけど、疲れるわ。今はこれが限界。