コスモプラネタリウム渋谷

日曜日。またカミさんと休日が重なった。
じゃデートでもしましょうか、となるわけだが、普段一人遊びばっか(と言ってもほとんど楽器の練習)しているので、急にデートしようとなってもさて、何をしたものかと途方に暮れてしまう。
映画は今そんなにみたいものはなし、イチゴ狩りはこないだ行ったし。

いろいろ逡巡した挙句、よし、ひとつプラネタリウムとでも洒落込んでみましょうかということになった。

最初は池袋のサンシャインで見ようかと思ったが、前も行ったことあるしなあ。お台場のメガスターも体験済みだ。どこか未経験で、なおかつ最新の体験ができる施設はないものかと調べてみたところ、おお。
渋谷に新しいプラネタリウムができているではないか。

渋谷といえばもちろん五島プラネタリウムの印象が強い。もう閉鎖してからずいぶん経つが、すぐ近くにまた渋谷の星空が復活していたとは。

早速番組内容などをチェックし、勇躍カミさんを連れて出かけて見ることにした。

向かったのは渋谷区文化総合センターにある「コスモプラネタリウム渋谷」という施設。
ネットで評判を調べてみると、2010年の開館当時はそりや凄い人気で、一日のチケットが朝の発売直後にもう売り切れてしまう、なんて書いてあるので少しびびったが、もう二年もたってるし、流石に落ち着いているだろうと高をくくって、現地についたのは13時半頃だった。

ついてみると、やはりオープン当時の熱気はすっかり冷めているようで、直後の14時半の回の券もまだ80席ばかり残っていた。

他に予定はないし、今日は一日星空満喫の日と決めた我々は、夕方からのプログラムを二本立てで見ることにした。

選んだのは「HAYABUSA 〜back to the earth」銀河鉄道の夜。色々な電磁波で宇宙の姿を捉える、という「EM」という番組も非常に惹かれたが、流石に三本連続マラソンはきつかろうということでパスした。

上映開始まで適当に時間を潰した上、開場30分前に再び戻ってきてみると、入場待ちの列は30人弱と言ったところ。
このプラネタリウムには、普通のリクライニング席の他、都内初という回転式の独立椅子があるのが売りだと予めリサーチしてあったのだが、この人数なら確実にそのプレミアムシートをゲットできそうだと安堵した。やはり流行りものは流行りが過ぎてから楽しむのが正解である。

ところが解説員の説明によると、今回のプログラムは室内の手前側が映像の正面になっており、手前側に設置された回転プレミアムシートに座ると、「向きをかえるために50分間踏ん張っていただく」ことになるからオススメしない、んだそうだ。

なーんだ。折角未体験回転シートを楽しみにしてたのに、がっかりである。

まあ、仕方がない。俺たちは室内最奥にあるプレミアムではないリクライニングシートに陣取った。だがここがおそらくはベストポジションである。

そしてついに今日の一本目、「HAYABUSA」がスタートした。もちろんあのイトカワに着陸して見事サンプルを持ち帰り、大ブームを巻き起こした探査機のドキュメンタリーである。

俺も話題になった当時は一応気にして見てはいたが、こうして一連の出来事をまとめて見るのははじめてだ。視界全体を覆うスクリーンに、小さなハヤブサが頼りなげに飛んで行くのをみると、本当に広い宇宙で一人ぼっちになったみたいなさみしさや恐怖を感じる。

想像を絶する巨大なスケールの世界で、驚嘆に値する精密さをもってミッションが進められていくそのギャップの大きさを、身体全体で感じることができた。
このHAYABUSAプロジェクトが、どんだけ凄いものかがよくわかった。いやぁ、日本ってすげえなぁ。
特に過剰な演出もなく、ストーリー自体はごく淡々と進むのも好感が持てる。事実だけで十分に感動できるから、これでいいのだ。

そして休憩を挟んだ後、今日の二本目の鑑賞に臨んだ。

次の番組は、銀河鉄道の夜の世界をCG化し、物語に登場する星座などの解説と共にふたりの旅路を体験しようというもの。

最初の10分間は、職員による生解説。やはりプラネタリウムは生解説が一番である。髪の白いおじさんだが、これが実に楽しそうに、嬉しそうに夏の星座を解説してくれる。
白鳥座を中心とした最もメジャーなエリアの解説なので、もう何度も聞いたような内容ではあるが、プラネタリウムを見ながらなら何度聞いてもいいものだ。

映像が始まってみると、さすがに最近はピクサーなどの金かけ過ぎなCG映像を見慣れてしまっているせいか、CG自体のクオリティはあまり高くないと感じた。無粋な感想ではあるが。

とはいえ、賢治の世界を映像化した作品はいろいろあるが、それぞれにいろいろな解釈、表現があるものだと感心させられる。慣れてくるとこれもなかなか素晴らしい光景であった。
ただ、内容としてはプラネタリウムの良さを活かしきれていない感じはした。宇宙を題材にした物語とはいえ、鉄道線路に沿っての旅だから、広がる世界は意外と平面的である。まあ、そういうお話だからしょうがないが、HAYABUSAを見た時の、上も下もないところに放り出されたような浮遊感を味わうような番組ではないようだ。

俺も銀河鉄道の夜を読んだのは大分前のことだが、記憶が薄い分、描かれる世界をわりと抵抗感なく楽しむことができた。これはやはり賢治やこの作品が大好きな人よりは、読んだことはある、程度の人が見るのに向いているだろう。
俺ももう一度読みたくなってきた。

上映が終わって、建物の2階に展示されている五島プラネタリウム当時の投影機を見に行った。

五島で育った俺としてはやはりプラネタリムといえばこれだよね、という感じがする。最近の投影機はコンパクトな半球形が主流になっていて、機械としてのハッタリというか、ロマンを感じないんだよね。施設としても、技術や演出は確かにすごく進歩しているのだろうが、五島のような400席以上もある大きな施設は最近とんと見かけない。プラネタリウムの臨場感には、星の数が何百万個、っていうスペックも重要だが、大きなスクリーンあってこそのスケール感は欠かせないと思う。
それにしても無骨な機械だ。まるで機関車みたいである。
こいつが室内中央に鎮座して鈍い音を立てながらウィィンと動いて美しい星空を描き出す姿は、大人になった今でも印象に残っている。ごくろうさんである。

そんな感じで星空満喫の楽しい一日が終わった。このコスモプラネタリウム渋谷は、施設も新しく快適に見れるし、一時の流行も過ぎているからチケットも落ち着いて求められる。番組のボリュームも30分が中心の池袋と違って、50分番組がほとんどである。これだけ楽しんで一本たった600円なのだから本当にお得である。のんびり時間をすごしたいカップルには是非お勧めしたいスポットだ。
俺も次回は本格的な天体解説のプログラムも是非みてみたいと思う。
そして今度こそ、プレミアム回転リクライニングシートに座るのだ!