借金時計

「借金時計」なる謎のオブジェクトがあるらしい。

国の債務が膨大な額に上っており、さらにそれが金利によってこうしている今も恐ろしい速度で増え続けている、ということを視覚的にわかりやすく表現した物のようだ。

見てみると確かにすごい。千万単位でドカドカと金額が膨らんでいるのがわかる。大変だ!

このサイトにはご丁寧に一世帯当たりに換算した借金額も表示されている。今、だいたい1,700万ということだそうだ。

え、おれんち何もしてないのにいきなり1,700万も借金してるの?やばいじゃん。しかもどんどん増えてるし。絶対返せないよ!
なんとかしないと!財政再建だ!

というのがたぶん、このオブジェを見た時の素直な感想だろう。俺も2年くらい前までは単純にそう思っていた。だから、消費税増税論がではじめた時も、「まあ、借金はいつか返さなきゃだし、そのために多少の負担になるのもしょうがないかもなぁ」と漠然と思っていた。少しくらい身を削ってでも、社会全体にとって最善の道を考えるのが、賢い国民としての立場だよな、と感じていた。

ところがいろいろ本を読んだり、財政に関する情報をネットで調べたりしていると、どうも「何かおかしんじゃね?」と思うようになってきた。

国の借金は間もなく1,000兆円になろうとする、それは確かによろしくないことだが、その1,000兆円、一体誰が貸しているんだ?という疑問である。

調べてみればすぐにわかる。国の債務のほとんどは国債の形で主に国内の金融機関などが購入している。金融機関の原資は我々国民の預金などだ。

つまり、日本にお金を貸しているのは他ならぬ我々日本国民であると言っていい。俺だってちょっとくらいは預金があるから、それも今、国に貸してやっていることになるのかもしれない。
ちなみに、世界各国の債務状況をグラフ化したサイトがある。これによると、日本国政府の債務の7割以上を占める国債についていえば、海外の投資家などが保有している割合はわずか6%ほどだそうだ。

他人から借金していて、返さないと本当に怒られる、いわゆる外債は1,000兆円のうち、ほんのわずかしかないということだ。

そういう前提でこの「借金時計」を見てみると、受ける印象は全く異なってくる。

つまり、この凄まじいカウンターは、俺たち国民が貸しているお金に利子がガンガンついて、殖えまくっているという、見ていてとても楽しくなってくる、ホクホクカウンターであるということではないだろうか?

よく「国民一人当たりの借金がウン百万になりました」なんてニュースを見て俺もブルッていたが、ああなんだ、勘違いしていた。「国民が借りているお金」が一人当たりいくら、なんじゃなくて、「政府が国民に借りているお金」が一人当たりいくら、ということだったのか。
勝手に解釈してビビってアホだな俺。日本語はむつかしい。

だから「借金時計」のサイトで、世帯当たり1,700万というのは、我々国民は何もしてないのに既に1,700万のウハウハ金融資産を持っている!(平均すれば、の話だけど)ということになるわけだ。ああよかった。

いや待て。この財部ナニガシ氏のサイトには「あなたの家庭の負債額」って書いてあるぞ?

どゆこと?やっぱ俺たちお金借りちゃってるの?俺たちが返さなきゃなの?この財部ナニガシのサイトには、ほぼ国民がこの借金を背負っている、といういいまわしで、貸し手は誰なのか、という視点は全くない。

さっぱりわからん。


なんつって。一応わかってはいるんだけどね。

ただ、やっぱりわからないのは、「国民一人当たり借金が」なんて言っている人たちが、一体どういう目的でそんなことを言っているのかということ。

国民一人ひとりが何百万も借金を背負わされているんですよ、なんて言われたら、普通の感覚の人なら不安になって「ああ、それならお金使わずに節約しなきゃ」となるのが当然。でも、そうやってみんなが節約しだしたら経済活動は縮小してますます税収は減る、借金は増えるばかりになるのは目に見えている。資本主義社会なんて、残念ながらみんなが大して要りもしない物でもガンガン買ってお金をグルグル廻す、自転車操業で成り立つようなものだ。そういう仕組みを知っているそこそこの立場の人なら、むしろ「借金なんか気にしないでいいから、お金をガンガン使おうぜ!楽しく行こうぜ!」って煽るのがスジだと思うのだが。まあ、クレジットカード乱発で破綻しまくってる韓国みたいのもどうかとは思うけどね。

これが外債の多いギリシャとか、夕張みたいな地方政府ならまだわかる。実際、夕張は歯止めが効かずにデフォルトしてしまったし。

ただ夕張やギリシャと決定的に違うところは、日本国政府には最終手段として「お金を刷ってしまう」という手があるということだ。日清、日露から太平洋戦争まで、膨大に膨らんだ戦時国債を、日本はハイパーインフレを起こすことでチャラにしてきたそうだ。少なくとも政府の借金が円建てで国内で消化されている以上、デフォルトなんて絶対にあり得ない。しかも日本は巨大な対外資をもつ超お金持ちだ。本気でそのつもりになれば、1,000兆円なんて明日にでも返してしまえるのだ。

この財部ナニガシ氏にしても、経済ジャーナリストを標榜しているのだから、一応専門家と言っていいだろう。その程度のことを知らぬはずはない。ありえるのが、俺がまだ勉強不足のおバカちゃんか、実は彼もわかってないか、あるいは知ってるのに敢えて隠しているということだ。
俺がおバカちゃんならまあそれでいいんだけど、少なくとも俺の素朴な疑問には答えてほしいな。

財政危機を煽る輩、彼らの目的がわからない。「借金時計」などという謎のオブジェまでこさえてまで何が言いたいのか。
財部氏のサイトにはこうある。
「私たちひとりひとりがタックスペイヤーとして当事者意識を持ち、自分たちが納めた税金が何にいくら使われているのか、財政を真剣に考えていただけると考えています」

あっそ。で?どうせよと??俺たち節約すりゃいいのか?


俺たちひとりひとりがこの借金を自分のものとして重荷に感じてしまうようなことがあれば、それこそ日本は破滅だと思うんだがね。事実ならそれもいたし方ないが、「貸し手」というすごく重要な前提を抜きにして、ただ数字をわかりやすく見せてみました、なんて「東京ドーム何杯分」とかいうわかったような気にさせる空虚な言い回しよりよほど害悪じゃないだろうか。

結局、ああ、日本破滅させたいのか。っていう結論しかでてこないんだよ。