こめこパン

日本農業の衰退が叫ばれて久しいが、なかでもコメ農家の危機的状況はやはり俺も不安になってしまう。

いろいろ制度的な問題もあるとは思うが、何しろコメの消費量が減り続けていることがその大きな原因であることは間違いないだろう。

ある資料によると、昭和30年代後半から2007年時点で、一人当たりコメの消費量はほぼ半分になってしまったということだ。そりゃあ値段も下がるし担い手も減るわいな。

困ったことに農業というものは、工業製品と違って需要がないからやめちゃえばいい、他の物作ればいい、という単純な物でもないらしい。ことにコメは日本の農村文化や風土、環境に深く根ざしており、放っておいたらすぐに荒廃し、どんなところに影響が出るか計り知れない。

さらに食糧自給率の問題もある。自分たちが食う物を自分たちで賄うのは国家の自立の根本である。たくさんの美味しいコメが採れる豊かな国土にあって、みすみす外国からの輸入穀物に頼るのはなんとももったいないなあ、というのが素直な印象である。

だから日本人は三食コメをバンバン食え、ということなのだが、自分でもなかなかそうはいかない。パンも食べるしラーメンだって食べたい。一日一度もコメを口にしない日も別に珍しくはない。

そんなこんなで不甲斐ない自分を呪う日々であったのだが、最近になってこの状況にわずかな希望の光が差してきたようだ。

米粉パンである。

wikiなどで調べてみると、米粉でパンが作れるようになったのはわりと最近、ほんの10年前くらいのことだそうだ。そういえば一昨年、世界初の米粉が使えるホームベーカリー(GOPAN)が発売され話題になったが、この米粉パンが日本のコメ農業を救う一助になるのではと期待されているそうだ。実際、給食に米粉パンを出す学校も年々増えているらしい。おお、いい話じゃないか。

資料によると、2007年の国内の小麦粉生産は約500万トン。うち200万トンがパン食用だそうだ。仮にこの半分が米粉で代用できたとすると、(重量あたりのコメと小麦を等価として)現在のコメ生産量の一割以上に相当する。いいぞいいぞ。

しかし肝心の米粉パンが美味いモノでなければ、そんな夢プランも文字通り画餅に帰してしまう。
よし、これは是非とも我が舌でその可能性を見極めねば!

前置きが長くなったが、そんな訳でさっそく米粉パンを買ってみることにした。まあ、要するに米粉パンが最近美味いと評判だったので、ちょっと食べてみたくなったというのが本当のところだ。

米粉パンは近所のスーパーでもたまに置いてあるのだが、日本の未来を占う重要な判断を下すのだ、その辺の適当なやつよりせっかくならこだわり抜いた渾身の一斤を味わってみるべきである。

俺は最寄りの米粉パン専門店をネットで調べ、所用のついでによってみた。

購入したのは米粉80%使用というふれこみの、クロワッサン食パン半斤。食パンのほうは半斤といっても普通の三分の一くらいのミニサイズ。なんだ、ケチくさいなぁ。このサイズでありながら、一般のパン屋で焼いているちょっといい小麦粉パンと同じくらいの値段。
まずはコスト面での問題をさらけだしたようだ。

まあいいや。もってかえって早速食ってみよう。

まずはクロワッサン。

見た目は普通の小麦粉ワッサンと何ら変わりはない。バターの香ばしい匂いが強く、これがコメ粉でできているとはとても思えない。ただ、なんとなくずっしりとした重量感がある。
表面が冷めたモチみたいにカチンコチンに硬いので、軽くトーストしてからかぶりついてみた。


もぐもぐ。モサモサ。
ふむ。


味はまさにクロワッサンのそれであって、特にコメっぽいところは感じられない。
が、特筆すべきはそのもっちりとした食感だ。小麦粉ワッサンと異なりパサパサ感はなく、口の中でモニュモニュと噛んで味わえるしっとりとした生地だ。
聞くと米粉パンは小麦粉よりも水分含有量がずいぶん多いそうだ。重量感を感じたのもこのせいだろう。

パイのように層状の生地でサクサクした食感を求める向きには好まれないと思うが、この食べ応えは十分にアリといっていい。
もっとコメっぽい味がするのかと思ったらそういうこともなく、特に印象に残るものではなかったが、しっかり米粉パンとしてのキャラは立っている。


そして翌朝、朝飯に食パンの方を食べてみることにした。

半斤でこんなものである。高さはiphoneの長辺くらいしかない。とはいえ、俺は最近すっかり朝飯抜きが定着してしまったので、この程度で十分といえばそうだ。

こちらも軽くトーストして食してみる。


もぐもぐ。モニュモニュ。
ほう。


生地の味をしっかり見極めたいと何もつけずに食べたが、単体でもなかなかの味わい。小麦粉パン(のいいやつ)を食べたときに口に広がる香ばしさ、はあまり感じられなかったが、やはり噛み応えのある生地をしっかり噛んでいると、甘みが出てくる。これもアリだな。
水分が多いせいか、外はパリッと、中はもっちり、というコントラストがしっかり出ていてよい。
小さいので、あっというまに食べてしまった。


結論をいうと、米粉パンは風味の面では小麦粉パンに多少劣るところがあるようだが、食べ応えのある食感とそれを噛むことによって増す甘みの豊かさにおいて小麦粉を上回っている。まだいろいろ改善の余地はあると思うが、十分に小麦粉パンと伍するポテンシャルを秘めていると感じた。
今回は専門店でちょっと高めのものを買ったが、スーパーで売るような安くておいしいものを大量に出せるようになれば、普及の可能性は十分にあるとみた。

早くおいしい米粉パンがいつでも買えるようになってほしいものだ。製パン会社のみなさん、がんばってください。

ところで米粉関連を調べてみたら、他にも米粉ラーメンパスタなどもあるそうだ。
やれやれ、またお店を探して食べにいかなきゃな。。。