ミステリーボーイ

職場のOA機器の取り扱いでちょっと困ったことがあり、にっちもさっちもいかないので、仕方なく普段はあまり関わりたくない担当部署に電話して聞いて見ることにした。

しかしこの件、誰に聞いたらいいのやらわからないので、社内ネットの名簿をみて担当と思われる、かつ下っ端で話しやすそうな獲物を物色してみた。

するとそこには以前見たときにはなかった、しかし何だか見覚えのある名前が表示されていた。

「う?何だっけコイツ…」名前に覚えはあるが何の関わりだったのか、全く思い出せない。社内ネットではSNSよろしく顔写真やプロフィールもみれるので確認してみた。

うん、間違いない。コイツはかつて俺と何らかの関わりがあったやつだ。

同期だけでも100人位いるのでそのうちの一人かと思ったが、プロフィールでは最近中途で入ったみたいな事が書いてあるので、ちがうようだ。

ともかく、こいつが歳近であることは間違いなく、担当の可能性も高いので電話して見る事にしてみた。

「もしもし、○○部の●●ですが…」

「はい、お疲れ様でございます」

えらくバカ丁寧な奴だ。
名前を名乗ったら相手の方から気づいてくれるかも、と思ったが当ては外れたようだ。

煮え切らぬ思いはさて置き、取り敢えず要件を伝えた。受話器の向こうのミステリーボーイは淀みなく答える。電話をする相手としては正解だったようだ。
が、俺にとってはそんな用事などすでにどうでもよくなっていた。

ミステリーボーイ、あんたは俺の何なのさ?

要件を済ませたところで早速本題に入ることにした。

「ところで△△さん、私とどっかで会ってますよねえ?」

手掛かりがないので茫漠とした問いかけしか出来ぬ自分が情けない。

「え?そ、そうですか?」

やはりミステリーボーイ君は全く気付いていない。失礼な奴だ。世の中の大抵の人間は俺より記憶力がいいはずだぞ。

仕事関係ではないとふんだ俺は、人間関係が最も希薄だった大学関係の人物と当たりをつけた。

「□□大学ですよね?」
「あ、ええ、そうです」

ビンゴ。

そのあとちょっと話してみたが、サークル、ゼミ、外国語のクラス、何を聞いても俺とは全く関わりがない。だがこいつの名前は覚えている。誰なんだミステリーボーイ!

埒があかないので、思い出したらまた話しましょう、という事にして電話を切った。向こうは最後までピンと来なかったようだ。本当に失礼な奴だ

ミステリー君の素姓は気になるが、ともかく大学時代の(元)知り合いが巡り巡って中途で我が社に入ってきていたとは、なかなかの偶然であるなあと、その邂逅にしばし思いを馳せた。まあ、仲のいい奴でなかった事は確かだが。

が、取り敢えず忙しいので、先ほど聞いたミステリー君の指示に従って、早速機械の復旧に取り掛かった。

…すると端末はクラッシュし、余計ひどい状況に陥った。くそ、ミステリーボーイめ、そんなオチは求めてないぞ。

仕方ないので明日、また電話して聞いてみることにした。明日になれば彼も「ああ、大学のアレで一緒でしたよねー」と思い出してくれて話も弾むに違いない。

あしたもトボけた応対したら承知せんぞ。っていうか、気になるから頼む、思い出してくれ。