バリウム

健康診断に行ってきた。いわゆる人間ドックというやつだ。

頼んでもないのに会社のカネで微に入り細に入り不良箇所を調べてくれるんだから実にありがたいことだが、憂鬱な気持ちはぬぐえない。

最大の難関はやはり胃部X線写真だ。そう、バリウムだ。

俺はこれを去年初めて体験した。「バリウムってまずいよねー」「ゲップしそうになって最悪」などと噂は耳にしていたのだが、正直これほどつらいものとは思っていなかった。

まず発泡剤。こいつがダイレクトに口腔内のオェェ中枢を刺激する。さらにそこへヌトヌトの硫酸バリウム液を注入するに至っては、拒絶したくなるのは人体の正常な反応といっていいだろう。

まな板の鯉みたいになりながらお姉ちゃんの指示に従って右へ左へともんどりうって転がり不自然な体制でストップさせられる。健康のためとはいえ、医学は恐るべき試練を与えてくれるものだ。

そして残ったバリウム。お姉ちゃんは「はい、全部飲んでくださいねー」と事もなげに命令を下す。あんた一回飲んでみろっ!と叫びたくなるのをぐっと堪え、涙目になりながらヌトヌト液を流し込む。

もうムリ、絶対のめない。「ごめんなさい、ムリです」と訴えては見たが、ガラス越しに俺を観察する姉ちゃんはあくまで冷たく、厳しく「全部、全部ですよ」

くっそー。いつかペットボトルで一気飲みさせてやるっ。

・・・
何とか試練を乗り越え、下剤でピーピーになった腹を抱えて出社した。同僚には「お前、顔色悪いぞ」と的確な指摘をうけるしまつ。よほど消耗したようだ。

子供の頃は、年に1度訪れる「インフルエンザ予防注射」が怖くて怖くて、何とか逃れるすべはないかと幼い頭で考え続けて夜も眠れなかったものだ。子供にとってはみんなそうだろうが、絶対に逃れられぬ恐怖のイベントだった。

今はもう針は平気になったが、大人になってから新たに恐怖の年中行事が増えるとは思わなかった。

ああ、来年もバリウムするのかなぁ。せめて隔年にしてほしいなぁ。。。


ところで今日いった病院には、2人の胃部X線担当がいるらしい。一人は今日俺を苦しめたクールビューティ姉ちゃん、もうひとりは講釈師よろしく朗々たる名調子で被検者を巧みに操るオヤジ先生。
どっちでも苦しいのにはかわらんのだが、どうせならあの名調子を聞きながら悶絶したかったものだ。