TPPのゆくえ

「食糧自給率の罠−輸出が日本の農業を強くする」(川島博之、朝日新聞出版)という本を読んだ。

震災のお陰ですっかり影が薄くなってしまったが、菅総理が打ち出したTPPとは何ぞや、とずっと気になっていたのだ。
今のところ、支援と復興、そして火消しに大忙しで、自身の決めた6月の期限までに結論が出される可能性はかなり低いと思われるが、落ち着いた途端にいつ話題が出るかわからない。今のうち知識を仕入れて自分の考えを持っておかねばならぬ、と思った次第だ。

話は逸れるが、俺は「…のワナ」とか「○○のウソ」とか「××にダマされるな!」とか、そういう刺激的な題名の本が大好きだ。自分がそれまで当たり前だと思っていた(でもたいして根拠はない)"常識"が、本を一冊読んだだけでガラガラと音を立ててぶっ壊される、で読んだあとに人の知らない"真実"をコッソリ知ったような気になって、安い優越感に手軽に浸れる一種のエンターテインメントだ。ここで提示される異論="真実"は、それこそ突飛であればあるほど面白い。無茶苦茶な論理を、如何にもっともらしく説明し、その気にさせるかが筆者の腕の見せどころだろう。

てなわけで、この大好きな「ワナ本」を手にしたわけだが、さていったいどんな手練手管で俺をだまくらかしてくれるのか。

さて暫く読んでみると、刺激的な題名とはウラハラに、いたって真面目な本であることが判明。しまった、釣られたかと気づいたが、まあ借りもんだし、これはこれでなんかの役には立つだろう。そういやTPPがどうとかいってたな俺。

論は日本において穀物の自給を高めることがいかに難しいかを、他国の事情との比較で明らかにしてゆく。比較対象とした国がどうも都合のいいところから選ばれた感じがしてどうかと思うが、まずは話を聞くとしよう。

興味深いのは、日本で農業(特にコメ)の集約化、効率化が進まないのは、過剰な保護政策や農家の怠慢のせいというよりも、歴史的に培われた農業者の意識、つまり文化的な要因によるものが強いという視点。日本で価格的にコメ農業を強くしようとしても、この壁を乗り越えるのはほぼ不可能だということだ。
この点、たかだか建国200年そこらのアメリカや、植民地支配などで歴史が度々分断されてきた諸外国とは全く事情が異なる。

ましてアメリカをはじめとする広大な土地を有する農業大国に、コスト面でどう立ち向かおうとも相手にならない。

じゃ食糧自給率は低いままでいいのか、という問いに対し、それこそが"罠"であるとする。仕掛けたのは農水省、ハマったのも農水省、というカラクリだ。

…というような内容だった。「輸出が農業を強くする」と副題にあるから、てっきりTPP推進につながる結論に達するのかと思ったら、必ずしもそうではなかった。

筆者の「守るべき分野と強くする分野を峻別する」という立場は、現実的な経済事情、土地や文化といった様々な条件に照らし、納得性が高い。

確かに今、コメは5kg2000円足らずで買えるけど、じゃそれが外米入れて1000円で食えるようになったら嬉しいかといえば、まあ安いに越した事はないが、それでもコメ食べる量が増えるわけじゃないしなあ。年間ベースでみたら、その程度の値下げが家計に与える効果は意外とたいしたことはないかもしれない。

それよりもコメはやはり日本で作ってないとアカン。品質や価格の問題ではなく、日本はコメを作る国でないとイカン、と思っている。

日本にも世界で戦える可能性のある農業の兆しが見えている、というのが希望の持てる内容だ。ここではオランダに範をとっているが、もう少し他国の事情を調べていけば、さらにいろんな示唆が得られるんじゃないだろうか。特に比較対象になっていないドイツ、イタリアや韓国など、経済規模や地理的条件が近い国などの状況は興味のあるところだ。

そんなことを考えた。
で、TPPはどーなった?